日本のデモクラティックスクールの卒業生は、まだ何百人もは存在しませんが、こちらで他校の卒業生の人たちの話を読むことができます。このページでは、まんじぇの卒業生のSさんのことを本人の許可を得て書いています。デモクラティックスクールで育ったら必ずこうなる!というモデルがあるわけではないですが、一つの例として知っていただけたら、と思います。

卒業生Sさんの話

 Sさんには、小学校入学時に、まんじぇに行くか、公立小学校に行くかという選択肢がありましたが、保育園からの友だちがいたのと、どんな場所か分からないので行ってみたい、ということで公立小学校に入学しました。最初のうちこそ「楽しかった。」と言っていましたが、だんだん「今日は行かない。」という日が増え、たぶん6月頃には「学校は止めてまんじぇにする。」と決めました。

 

 その当初、立ち上がったばかりのまんじぇには彼女一人。その後も数名という人数の日々もけっこうありましたが、のんびり、やりたいことにたっぷり没頭しながら過ごしました。絵を描いたり、工作したり、本を読んだり、ボードゲームをしたり、お料理したり、ときにはお出かけしたり。お出かけもいろいろなところに行きました。公園、山、テーマパーク、科学館…水族館や動物園では一般の学校と同じように裏側を案内してもらったり、ゾウやサイに餌をあげさせてもらったりもしました。お仕事見学にもあちこち行きました。(誰かが行きたいと言った場所に依頼して見学させてもらいました。)パン屋さん、鍼灸院、動物病院、和菓子屋さん、消防署…Sさん自身の希望で鵜匠のお仕事を見学させてもらいに行ったことも。

 

 他にもいろいろなご縁で田植えや稲刈り、畑仕事をさせてもらったり、化石掘りに連れていってもらったり、まんじぇのメンバーで計画しての旅行もたくさん行きました。中でも3年連続で行った和歌山県太地町への旅は、その計画の過程、現地での人との出会い、最後にはイルカやクジラについての世界的な問題に至るまで、大きな学びがあったように思います。

旅は学びの宝庫ですね。

 

 おそらく読んでいらっしゃる方の中にはいわゆる「読み書きそろばん」のような学習はどうやってしたのか知りたいと思う方が多くいらっしゃると思うので、それについても書いておきます。平仮名や片仮名はおそらく普段の生活の中で自然に覚えました。一般の学校でやるような書き取りの練習をしているところは見たことがありません。漢字は一時期、まんじぇにある「部首かるた」にはまったことがあり、そのときにたくさん部首やその意味を覚えたことは、その後、漢字を覚える役に立ったのではないかと思いますが、やはりたくさん書く練習をするようなことは見たことがありません。代わりに、例えば子どもたちで発行している「まんじぇニュース」などの記事を書くときに、辞書で漢字を調べながら書いている姿はよく見かけました。本を読むことはずっと大好きだったので、そこからも自然に覚えたのではないかと思います。

 

 計算などの算数は1年生の頃に面白がって九九を歌で覚えました。その後はたぶん、ボードゲームでお金やポイントの計算をするうちに自然と覚えたんじゃないかと思います。他にはなぜだかときどき忘れた頃にやってきた算数ブーム(誰かが「やろっかな?」とやり始めて他の子も一緒になってやり始めて、はまる)のときに筆算とか小数とか分数はやりましたが、でも、そこで初めて触れたかというと、それよりも前に例えばお料理をしたりするときの経験から小数や分数がどんなものか、なんとなく分かっていたのを確認した感じじゃなかったかと思います。

 

 そんな感じに過ごしてきて中学生の年の頃に「高校に行こうかな」と決めました。その頃までにはっきりしてきた将来やりたいことのためには高校に行った方がいいと思ったこと、現在通っている高校の学校説明会に参加したときの雰囲気がよかったこと、などが動機だと思います。受験するなら、そこまでの学力をつけなきゃね、と言いつつもなかなか本格的にはやらず。中3の年になった頃にいよいよ少しずつやり始めましたが(小4くらいの学習からスタートしたと思います。)少しやっては間がずいぶん空き…という感じで本当に少しずつでした。3月の受験を控えてやっと本腰が入った様子だったのがもう年を越して1月も後半になってからだったと思います。そこからはガーッと一気にやっていました。しかも、まんじぇの時間は他の子たちと一緒に遊んだりして過ごしたいから、ということで、勉強はその後夕方からほぼ自学自習でやっていました。(たまに分からないところを聞く程度)最後の数日だけはついに昼間もやっていましたが(笑)

 

 受験は国語・数学・英語の3教科と作文・面接。英語はずっと習い事として習っていたため、特にあらためて頑張らなくても大丈夫そうだったので、頑張ったのは国語(漢字と作文)と数学で、特に数学はかなり必死にやっていました。面接に関しては、籍があった公立中学で「練習に来ませんか?」と誘ってもらったので、何度か練習に通っていました。そしてむかえた受験当日。やれるだけのことはしたとはいえ、合否の予想は全くつきませんでした。それにしても勉強は大変だったと言っていましたが印象的だったのが受験について「ああ、面白かった!」と言っていたことです。「ええっ?面白かった!?」と返すと「だって、初めてのことって面白いじゃん。」との答え。こういう、新しいことにワクワクとチャレンジする感覚は、さすがまんじぇ育ち、と思いました。

 

 結果、合格!すごく嬉しかったようです。しかし、なにしろ実質数ヶ月で詰め込んだ知識。果たして入学後、ちゃんとついていけるのか?と少し思いましたが、その後の話を聞くと、全く問題ないようです。漢字だけはやはりストックが少なかった分、今頑張らないといけないみたいでちょっと苦労していますが、それも「今度こそミニテストで100点取る!」とか言って頑張っています。受験前に必死になってやっていた数学は、急いでやったのでなんとなくあやふやだったところが授業ではっきり分かってよかった、と言って成績もけっこう上位、国語では「漢文面白い!」とか、現代文でも「羅生門って最初に読んだときは短い話で『で?』って思ったんだけど、先生の解説を聞いたら、そういうことか!って思うことがいっぱいあって、もう、それ全部聞かせたいくらいだよ。」なんて言っていました。他の教科も概ね楽しんで受けているようで、成績もわりとよい方みたいです。やはり、いやいや勉強をしてこなかったことは大きいし(無理やり勉強させられてきた子は、高校に入る頃には勉強がもうすっかり嫌なものになっている子も多いですよね。)、いろいろなところで、まんじぇで過ごした中で培ってきた経験や生活に密着した学びが実はベースになっているのだな、と話を聞いて感じます。

 

 

 学力以外でもSさん本人はこんなことを思っているらしいです。面白いですね。以上、Sさんの9年の歩みでした。これからも、まんじぇで育った子たちがどんどん巣立っていくでしょう。それぞれまんじぇでの過ごし方も違うし、それぞれの道に進むでしょうけど、どの子もきっと自分らしく、人生を楽しんでいくに違いないと確信しています。